先日発売されたばかりの、松村一男『神話学入門』(詳細は下記リンクを参照)を入手した。
本書は、1999年に刊行された『神話学講義』(角川叢書)の文庫版であり、加筆・補筆は基本的にはなされていない(研究書の日本語タイトルなどが一部変更されているだけのようだ)。ただ、「学術文庫版あとがき―二十年の後に」(pp. 253-255)なるものが末尾に付されており、これがなかなか興味深いので、感想を交えながら簡単に紹介しておきたい。
松村氏は、原著の刊行からおよそ20年が経過した今、神話学において変化したことを2つ挙げている。ひとつは、「新しい大理論の出現」で、これについては、(A)動物行動学にもとづくもの(ヴァルター・ブルケルト)と、(B)遺伝子学的人類史とビッグデータの活用によるもの(マイケル・ヴィツェル&ユーリ・ベリョーツキン)が取り上げられている。僕がとくに興味をもっているのは(B)のいわゆる「世界神話学」で、関係者によって神話モチーフの分布状況の解明が加速度的に進められている。ユングやイェンゼンが苦労して論じた神話のパターンの問題にたいし、科学的根拠にもとづいた解答が与えられつつあるわけだ。
もうひとつ、変化したこととして挙げられているのは、2007年に発足した国際比較神話学会(International Association for Comparative Mythology=IACM)の活動である。昨年(2018年)には、東北大学で第12回研究集会が開催されたが、この学会にはこれからも神話学を盛り上げてほしい。
松村氏はまた、20年のあいだで変化していないことについても話をしている。それは「研究者不足」の問題である。神話学が「学問分野として公認されない」ことがその理由とされており、これはたいへん残念なことといわねばなるまい。このような状況を受けて氏は、「[神話学が]いかに魅力的な分野であるかを知ってもらうための一助と本書がなることを願っている」と述べている。僕は、学部生のころに原著を読み、たいへんな感銘を受け、神話学が「いかに魅力的な分野であるか」を知った者の一人だ。
ちょうど明日、レヴィ=ストロースの神話学にかんして講義を行うので、今から、手に入れたばかりの文庫版で、この人類学者を扱う第六章と第七章を読む。整理した知識は、学生としっかりシェアしたい。残った章も、順次楽しみに読んでいく予定だ。
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