20世紀初頭のオルペウス

カルチャーセンターでギリシア神話の話をするときは、毎回、関連するヨーロッパの絵画作品を複数紹介することにしている。視覚にうったえる教材があれば、神話物語が受講者の方々の記憶により残りやすいのではと考えているためだ。

 明日の神戸新聞文化センター三宮での講座では、クリーブランド美術館に所蔵されている、オディロン・ルドン(Odilon Redon、1840~1916)の《オルペウス》(下にある絵がそれだ)を紹介するつもりだ。説明にあたり、いくつか文献を読んでいるのだが、Paul Barolsky, Ovid and the Metamorphoses of Modern Art from Botticelli to Picasso(詳細は下の【参考文献】欄を参照)の解説が興味深かったので、以下、簡単にメモしておきたい。

 Barolskyの説明でポイントとなっているのは、この絵の文化史的背景だ。ルドンの絵は、20世紀初頭(1905年頃)に作成されたわけだが、Barolskyによれば、どうやらここには、同時代の文学作品および音楽作品との照応関係が見出せるようなのだ。前者については、象徴派(とりわけボードレール)が展開させた「モダニズム的放浪者the modernist sense of the fugitive」(p. 206)のイメージが重要で、後者については、ドビュッシーの「メランコリックな絵画的印象melancholic pictorial impressions」(p. 207)と結びつけることができるらしい。ただ正直にいうと、僕は、知識不足のために、この説明の意味するところがまったくわからない。たとえば有名なモローの《オルペウス》(オルセー美術館所蔵)と比べると、ルドンの絵には、「メランコリックな」「放浪者」が描き出されているように思えなくもないが、このような素人談義は許されないだろう。僕は、芸術における境界侵犯的作用に興味があるので、Barolskyの言わんとしていることをぜひ理解したいのだが、すぐには無理そうだ。

 ギリシア神話画というと、僕はどうしてもルネサンス・バロック・新古典主義(ティツィアーノ、ルーベンス、アングルなど)のものばかりに目がいってしまい、それ以降のものについては知識が少ない。だが、今回のルドンの作品のように、神話画はずっと描き続けられているわけなので、新しい年代のものについても、しっかり勉強をしておかなければならない。そういった意味では、ルドンの《オルペウス》は、面白い出発点になりそうだ。

【参考文献】

Paul Barolsky, Ovid and the Metamorphoses of Modern Art from Botticelli to Picasso, Yale UP, 2014.

つねに多くのことを学びつつ年をとる―勝又泰洋の学問日記―

このサイトでは、学者の卵である私、勝又泰洋が、日々の勉強・研究について(もっぱら自身の備忘のために)簡単な文章をものしています。サイト名の「つねに多くのことを学びつつ年をとる」は、古代ギリシアの政治家ソローンによる詩の一節です。これを座右の銘として、毎日マイペースに学問に励んでいます。

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