先月末、『『英雄伝』の挑戦―新たなプルタルコス像に迫る』(詳細は下のリンクを参照)が上梓された。僕たち執筆者一同は、普段お世話になっている方々に献本をさせていただいたが、そのお礼のご連絡をこの数日で続々といただいており、出版の実感がわいてきているところである(ご感想等くださった方々も、本当にありがとうございます)。
僕は、「語り手の自己呈示と読み手の形成―読者を引き込む語りの仕掛け」(第8章、249~278頁)という論考を寄せたわけだが、議論のなかでは、プルータルコスの姿勢を同時代の著述家たちのそれと比較する、という方法をとくに強調している。もちろん、これは第一には「プル[ー]タルコスの特異性をより明確に捉える」(251頁)という目的のためなのだが、じつは、それとは別に「第二の目的」も隠れていることをここで告白したい。以下がその説明だが、簡単な補足と思って読んでいただければ幸いである。
結論からいうと、『英雄伝』以外の「第二次ソフィスト思潮Second Sophistic」(紀元後1~3世紀にローマ帝国の内部で広まった一大文化思潮)の作品のことも、多くの人に知ってもらいたい、という願望があったのだ。拙文のなかでも触れている(250頁の注2)が、プルータルコスもかかわったであろう「第二次ソフィスト思潮」への学術的関心は、ここ数十年で飛躍的に高まってきている。ただ残念なことに、これは欧米世界に限られたことであって、日本ではこの文化思潮の知名度は著しく低い状態だ。そういうわけで、「第二次ソフィスト思潮」の研究を(細々とではあるが)続けてきた人間として、僕は、プルータルコスと合わせて、ルーキアーノスやピロストラトスの「宣伝」をしたかったのだ。今回は、いわゆる「学術雑誌」よりもはるかに多くの人の目に触れるであろう「書籍」という媒体で文章を書かせてもらうこととなったので、このような「第二の目的」を立てさせてもらったわけだ。
というわけで、拙論のあちこちで出した「第二次ソフィスト思潮」にかかわる固有名詞のなかで、もし知らないものがあれば、積極的に調べてほしいと思っている。もちろん僕自身も専門家として、本国でのこの文化思潮の知名度を上げるために、さまざまな仕事をしていきたいと考えている(京都大学学術出版会の「西洋古典叢書」のシリーズでいくつか関連著作の翻訳を出すことが決定しているので、ご期待あれ)。
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