2019.07.16 13:22ロンドンでの国際学会(その二:自分たちの研究発表)前回(2019.7.14)は、学会の概要について記したが、今回から、テーマ別に細かい話をさせてもらおうと思っている。シリーズ第二弾の本記事では、僕たち自身の研究発表について書きたい。 全部で87あるパネル(タイトルやアブストラクトは、下に載せた公式ウェブページで見ることが可能)は、運営サイドによって、5日・6日・7日・8日のうちの、午前の部(9:30~11:30)か午後の部(15:00~17:00)に割り振られ、僕たちのパネルは、6日の午後の部だった。終了後、パネルのメンバーでも話をしたのだが、出番は早すぎず遅すぎずで丁度良かったと思っている。たとえば、もし8日の午後の部(つまり最後)にでも割り振られたとしたら、緊張で学会を楽しむことなどできなかったと...
2019.07.14 14:50ロンドンでの国際学会(その一:全体の概要)今回は、「ロンドンでの国際学会」のシリーズ記事の第一弾ということで、僕が先日(7/4~7/8)参加してきた学会の概要を記すことにしたい(下に公式ウェブページのリンクを貼っておくので、こちらも合わせ参照されたい)。 主催は、ギリシア・ローマ学では世界最大の規模を誇る学会、Fédération internationale des associations d'études classiques(頭文字をとって、FIEC「フィエック」と呼ばれるのが普通)で、5年に一度、夏に研究集会を開いているのだが、今回はその第15回の集会だった。開催地は、集会ごとに変わり、今回はロンドン。ちなみに過去5回の開催地を記しておくと第10回(1994年):ラヴァル(カナダ)第...
2019.06.25 14:05ロンドンでの研究発表の最終準備7月の4日から8日にかけて、FIEC(Fédération internationale des associations d'études classiques)の第15回研究集会(+Classical Associationの年次集会)がロンドンで開催される。詳しくは、下にリンクを貼った大会公式ウェブページをご覧いただけると幸いである。 まことにありがたいことに(そしてたいへん緊張することに)、僕はこの大会で、「日本における西洋古典受容」をテーマとしたパネルの一員として口頭発表をさせてもらえることになっている。プルータルコスの『対比列伝』にかんする話をするのだが、準備は最終段階に入りつつある。 精神的に落ち着かない日々が続いている(このあたり、もう...
2019.06.09 12:00研究発表のためのスライド作り7月頭にロンドンで研究発表をさせてもらうのだが、今、それに向けて鋭意準備を進めている。大学院時代から数えると約10年「研究者」として生活をしているので、学会で自分の研究内容について口頭発表を行うというのは、すでに何度も経験しているのだが、今回は、ひとつ、初めてのことにチャレンジしている。それは、PowerPointのスライドを使って報告を行う、ということだ。これまでは、国内国外問わず、議論の内容をまとめた紙の資料(ハンドアウト)を準備して、聴衆にはそれを見ながら話を聞いてもらう、というスタイルでやってきたのだが、今回は、短い時間のなかで外国人の聴衆に議論の骨子を理解してもらう必要があるため、とにかく「インパクト」が重要と考えたわけだ。文字だらけの紙の資...
2019.05.26 12:03ワークショップ「日本における西洋古典受容」を終えてここ2週間ほど、5月25日(土)開催のワークショップ「日本における西洋古典受容」(詳細は下のリンクを参照)での発表の準備に追われていた(これまで継続してこのブログサイトを訪問してくださっていた皆さま、この期間、更新がきちんとできておらず、申し訳ありませんでした)。これは無事に終わり、今日、京都に帰ってきた。ようやく心身ともに落ち着いたということで、簡単にワークショップのことについて記しておきたい。 僕は、澤田謙(さわだ・けん、1894~1969)という、戦前・戦中は政治活動・執筆活動に勤しみ、戦後は子供向けの伝記作品を多数残したことで知られる人物による、『少年プリューターク英雄伝』(1930年)なる本について話をさせてもらった。この作品は、プルータルコ...
2019.05.01 08:55ギリシア・ラテン文学研究における時代区分の問題昨日で「平成」が終わり、今日「令和」がスタートした。メディアでは、少し前から「時代論」(「平成とは○○」etc.)が盛んで、これはもうしばらくのあいだ続くだろう。僕も、以前から、時代区分なるものに興味をもっているのだが、元号が変わったこの機会に、思うところを述べてみようと思う。ただ、日本社会のことを語る資格は僕にはないので、話は、専門としているギリシア・ラテン文学のことに限りたい。 文学史にはさまざまな説明の方法があるが、ギリシア・ラテン文学の場合は、(切り分けられた)「時代」が理解のポイントとされることが多い。ギリシア文学においては、「アルカイック期」「古典期」「ヘレニズム期」「ローマ帝政期」の4つが、ラテン文学においては、「共和政期」「黄金期」「白...
2019.04.28 11:12鶴見祐輔による『対比列伝』の紹介ここのところ、大戦期における日本のプルータルコス『対比列伝』の受容について調査を進めているが、当時、主に外交の分野で活躍した政治家、鶴見祐輔(つるみ・ゆうすけ、1885(明治18)~1973(昭和48))の『プルターク英雄伝』はとりわけ重要な資料だ。これは、ジョン・ドライデンの英訳をもとにした、鶴見による『対比列伝』の日本語訳で、初版は1934年に出た。のちに複数の出版社から改版も出されていて、日本において『対比列伝』の認知度を上げるのに大きな役割を果たしたと考えられるものだ。今もっとも手に入れやすいのは、全8冊の潮文庫版(1971~1972年)からの抜粋でできた、「潮文学ライブラリー」版である(以下、頁数を記すときは、この版のそれにしたがう)。 僕が...
2019.04.27 12:33『対比列伝』を書き換えた澤田謙の「英雄」今日は、京都大学西洋古典研究会の例会で、日本におけるプルータルコス『対比列伝』の受容にかんする発表をさせてもらった。分析対象として取り上げたのは、主に昭和時代に活躍した文筆家である澤田謙(さわだ・けん、1894(明治27)~1969(昭和44))の『少年プリューターク英雄伝』(1930年=昭和5年)だ(数年前、講談社文芸文庫の復刻版が出たが、詳しくは下のリンクを参照されたい)。 澤田の著作は、一言でいえば、『対比列伝』のアダプテーションである。『対比列伝』については、明治から大正にかけて、さまざまな翻訳(すべて英語からの重訳)が現れたが、澤田書は、これらとはその性格を異にしている。要するに、澤田独自のさまざまな「編集」の形跡がみられるわけだが、そのなか...
2019.04.22 12:15日本教育史におけるプルータルコス『英雄伝』鷲田小彌太『はじめての哲学史講義』(詳細については下のリンクを参照)を読んでいて、モンテーニュの解説の末尾に、「『プルターク英雄伝』」という題名のコラムが付されているのを偶然見つけた。見開き一ページのごく短いものだが、僕が現在進めている研究と深くかかわることが記されていたので、簡単にメモしておきたい。 文章の趣旨は、日本におけるプルータルコスの『英雄伝』の教育的役割―伝記のかたちをとって歴史上の範例を提供するという役割―に注目してみる、というものだ。出だしの部分から少し長めに引用したい。太平洋戦争敗戦後、日本の教育の題材から消えて久しいものの一つに、「英雄」物語があります。各時代、各分野の英雄を選りすぐり、その生き方、考え方から学ぶということを、偶像崇...
2019.03.29 13:58「理論」と西洋古典学今日は、東京大学で開催された、ティム・ホイットマーシュ先生の講演会に参加した(先生と僕の関係については、2019.3.22の記事で取り上げているので、まずはこちらを読んでいただけると幸いである)。ただ、今回は、講演会それ自体のことではなく、そのあとに行われた懇親会のことについて書きたいと思う。 場所は、カウンターのある天ぷら屋だったのだが、オーガナイザーの先生のご配慮で、僕は、ホイットマーシュ先生の隣に座らせてもらった。そのため、この上なく幸運なことに、僕は会のあいだずっと先生とお話をすることができた。とはいえ、もともと先生にはお聞きしたいことが山ほどあった(ちなみに最後にお会いしたのは4年前)ため、実際は、僕の先生への「インタビュー」という形式だった...
2019.03.24 13:02「煉獄篇」の面白さ今日は、関西イタリア学研究会の例会に参加してきた。ダンテ『神曲』の研究で有名な慶應義塾大学の藤谷道夫先生が、「煉獄とは何をする場所なのか」という題目でお話をされたのだが、たいへん勉強になった。僕は、『神曲』のなかでも「煉獄篇」にはそれほど馴染みがあったわけではなく、事前にひととおり(日本語訳で)読んだときも、どういった点が重要なのか正直わからなかった。だが、今回の先生のご発表―「煉獄篇」の総合的解説―を聴いて、「煉獄篇」がいかに面白い物語であるのかが理解できた。あの場で学んだことを挙げ出したらきりがなくなってしまうので、以下では、とくに印象に残った事柄を2つだけ記しておくにとどめたい。 一つ目は、煉獄の総督をしている小カトー(第1歌)にかんすること。僕...
2019.03.22 09:10ティム・ホイットマーシュ先生の講演会3月29日(金)が待ち遠しい。というのも、この日、東京大学で、ケンブリッジ大学のティム・ホイットマーシュ(Tim Whitmarsh)教授による講演会が開かれるからだ(一番下のリンクは、運営サイドによるその案内である)。演題は'The Bastards of Cynosarges and the Invention of Virtue'(「キュノサルゲスの庶子たちと徳の発明」)で、紀元前5世紀の哲学者アンティステネース(いわゆる「犬儒(キュニコス)派」の祖といわれる人物)の思想と、「キュノサルゲス」というアテーナイの複合施設(体育場などがある)の関係性について話がなされるようだ(僕は事前に受け取った講演原稿をすでに読ませてもらったが、事柄の性質上、詳細...