今日の現代神話学の講義では、デュメジル(1898~1986)を取り上げた。いつもどおり学生にはコメントシートに好きなことを書いてもらったが、とくに反応の多かった二点についてメモしておきたい。ただ、ひとつの記事のなかで両方の話をすると長くなりそうなので、今日(2019.1.10)と明日(2019.1.11)の二回に分けたい。
今回扱うのは、構造主義との関係のこと。デュメジルは、「三区分イデオロギー」で知られるわけだが、その基本の考え方は、神を単体でとらえるのではなく、ある神Aを、それとは別の、神B・神Cとの関係のなかでとらえる、というものだ。ローマ神話でいえば、ユピテル・マルス・クイリヌスはひとつの集合体で、そのなかでうまく役割分担がなされている(ユピテルは主権、マルスは戦闘、クイリヌスは豊穣を司る)、と考えるわけだ。
このように、特定の要素を単体でとらえるのではなく、他の要素とのあいだの相対的位置関係のなかでとらえるわけなので、デュメジルの考え方は構造主義的と呼んでいいだろうし、実際そう呼ばれてきた。
「構造主義」と聞いて気になるのは、彼と先輩言語学者ソシュール(1857~1913)との関係だ。D・エリボンは、デュメジルへのインタビューの記録である『デュメジルとの対話』のなかで、「三区分イデオロギー」の理論を組み立てるうえで、彼がソシュールを参考にしたのかどうか聞いているが、デュメジルはそれにたいし「ソシュールの著作は読んでいない」と答えている(日本語訳pp. 130-131)。
エリボンの問いは、だれでも尋ねたくなる問いだろう。デュメジルの理論のなかに、ソシュール的構造主義が明らかにみてとれるからだ。ただデュメジル本人が影響関係を否定しているので、ひとまずそれはそう信じるしかなさそうだ。
また別の思想史的観点で考えると、デュメジルの師匠がかのA・メイエ(1866~1936)であることは注目すべきかもしれない。というのも、このメイエは、ソシュールの弟子だからだ。つまり何をいいたいのかといえば、デュメジルが、メイエをつうじて、ソシュールの理論(=構造主義的思考)を学んだとは考えられないだろうか(これは僕の以前からの仮説だが、今日、学生の一人がコメントシート内で同じ推測をしていて、感動してしまった)。
上で紹介した『デュメジルとの対話』のやりとりのあとで、話は(当然といえば当然かもしれないが)レヴィ=ストロースのことになる(日本語訳p. 133以下)。これもじゅうぶん面白いが、僕としては、エリボンには、メイエの話を振ってほしかった。
【参考文献】
ジョルジュ・デュメジル、ディディエ・エリボン(著)、松村一男(訳)『デュメジルとの対話―言語・神話・叙事詩』平凡社、1993年。
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