半期担当させてもらった神話学説史の講義、今日がラストだった。J・キャンベルを取り上げたのだが、この人物を最終回にもってきた理由は大きく2つある。ひとつは、単純に、時代的にもっとも新しい人物だから、というもの。そしてもうひとつは、キャンベルのインタビューの記録である『神話の力』(詳細は下記リンクを参照)に見える、神話をめぐる彼の力強いメッセージを学生に紹介したかったから、というもので、僕にとってはこちらのほうが重要な理由だ。学生の反応のことも含めて、そのメッセージについて簡単に書いておきたい。
キャンベルは、インタビュアーのB・モイヤーズにたいし、神話には「教育的な機能、いかなる状況のもとでも生涯人間らしく生きるにはどうすべきかを教えてくれる機能」(95頁)があると述べており、これを前提として、私たち一人一人も「英雄」(いうまでもなくキャンベル神話学のキーワードである)になり得るということを強調する(とりわけ「英雄の冒険」と題された第五章にて)。たとえば以下のやりとり(314~315頁)を授業で紹介してみた。
キ「神話は、もしかすると自分が完全な人間になれるかもしれない、という可能性を人に気づかせるんです。自分は完全で、十分に強く、太陽の光を世界にもたらす力を持っているのかもしれない。怪物を退治することは、暗闇のものを倒すことです。神話はあなたの心の奥のどこかであなたをとらえるのです。少年は少年らしくそれに近づく。…成長するにつれて、神話はもっともっと多くのことを教えてくれる。…」
モ「私はどうやって私の内なる龍を倒せばいいのでしょう。私たちが各自しなければならない旅とは…どういうものなのでしょう。」
キ「私が一般論として学生たちに言うのは、「自分の至福を追求しなさい」ということです。自分にとっての無上の喜びを見つけ、恐れずそれについて行くことです。」
(中略)
モ「そう考えてくると、私たちはプロメテウスやイエスのような英雄と違って、世界を救う旅路ではなく、自分を救う旅に出かけるんですね。」
キ「しかし、そうすることであなたは世界を救うことになります。いきいきとした人間が世界に生気を与える。」
注目したいのは、キャンベルが、「学生たち」(引用の中ほど)を意識していることだ。大学の教壇に立つキャンベルのリアルな声が伝わってくるようだ。
また、これと内容的に関連するものとして、以下のキャンベルの言葉(349頁)も紹介した。
「神話的にものを考えることは、あなたがこの「涙の谷」において避けられない悲嘆や困苦と、折り合いをつけて生きるのを助けてくれます。あなたの人生のマイナス面だとかマイナスの時期だと思われるもののなかに、プラスの価値を認めることを神話から学ぶのです。」
キャンベルがいうところの「神話の力」の意味が端的にあらわされているように思う。
以上のようなキャンベルの言葉を紹介して、学生たちはどのように感じるかと思っていたが、コメントシートを見ると、予想以上に好意的な感想が多く、とても嬉しかった。僕としては、最後の授業は「キャンベル先生」に代講をお願いしたつもりだった。たぶん上手くいったのではないかと考えている。
0コメント