明日のカルチャーセンター(神戸新聞文化センター三宮)の講座では、オルペウスの物語を取り上げるが、その教材として、僕がもっているモンテヴェルディ作曲のオペラ《オルフェオ》のDVDを用いる予定だ。このDVDは、2002年のリセウ大歌劇場(バルセロナ)における上演を収録したもの(より細かな情報については、下の販売会社のリンクを参照)で、個人的にはなかなか楽しめた。
全体を鑑賞して、とくに興味深く思ったのは、第4幕のなかのワンシーンだ。オルペウス(フリオ・ザナージ)が禁令を犯して、後ろにいるエウリュディケー(アリアンナ・サヴァール)のことを振り返って見てしまうのだが、その行為は、突然の「物音」によって引き起こされることになっているのだ。モンテヴェルディ(および台本作家のアレッサンドロ・ストリッジョ)も参考にした可能性がある、オウィディウス『変身物語』(第10巻)やウェルギリウス『農耕詩』(第4巻)では、このような「物音」にかんする記述はない。オルペウスが後ろを振り返ってしまうのは、あくまで彼の気持ちが弱かった(不安に打ち勝てなかった)ためとされているのだ。
僕が言いたいのはつまり、モンテヴェルディのバージョンでは、オルペウスが後ろを見てしまうことにわずかばかりの正当性が与えられている、ということだ。突然背後で大きな音がすれば、誰でもそちらの方を見たくなるだろう。オルペウスの行為も、ある程度は仕方ないとみなせるわけだ。オウィディウスやウェルギリウスのバージョンでは、オルペウスの忍耐力の欠如が強調されていることになるが、モンテヴェルディ(とストリッジョ)は、ひょっとすると、両古代詩人にこのようにきびしく取り扱われるオルペウスを気の毒に思ったのかもしれない。
《オルフェオ》のような、西洋古典文学のアダプテーション作品に触れるとき、僕はこのような「細部の異同」に注目することにしている。そういった点においてこそ、アダプテーション作家(今回の例ではモンテヴェルディ)のこだわりが見出せる可能性があるからだ。「神は細部に宿る」ことを忘れないようにしたい。
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