今日は、京都市勧業館(みやこめっせ)で開催されていた「春の古書大即売会」に行ってきた。2回目の訪問だった(1回目のことについては、2019.5.2の記事で取り上げたので、こちらもご覧いただけると幸いである)が、ひとつ、嬉しい買い物ができた。恒文社の「クリスタ・ヴォルフ選集」の一冊、『ギリシアへの旅』(詳細は下のリンクを参照されたい)の美本を安価で入手できたのである。
旧東ドイツの小説家クリスタ・ヴォルフ(Christa Wolf、1929~2011)が、僕のような西洋古典学徒にとって重要なのは、とりわけ彼女の『カッサンドラ』(Kassandra、1983年)および『メデア―複数の声』(Medea: Stimmen、1996年)という作品ゆえだ。前者ではカッサンドラーが、後者ではメーデイアを含む6名の人物が語り手となって、古代世界で流布していた伝承とは異なった物語を披露する、というかたちになっている。今回手に入れた『ギリシアへの旅』は、『カッサンドラ』の原著に収録されている論説「ある物語のための諸前提―四つの講義」の日本語訳である。
題名からも推測できるように、「諸前提」は、小説『カッサンドラ』を理解するための、いわば補助資料である。ただ、そうはいっても、重要度が低いわけではもちろんないはずだ。ヴォルフが1982年にフランクフルト大学で行った4つの講義の草稿から成っているわけだが、その4つの論考は、どれもたいへん読みごたえがありそうなのだ。ギリシア旅行記(「講義I」と「講義II」)、仕事日誌(「講義III」)、女性作家論(「講義IV」)が合体したこの文章群は、いうならば、『カッサンドラ』が完成するまでの「楽屋裏」が記されたものと僕はみている。
来年、カルチャーセンターの講座で、ヴォルフの『カッサンドラ』を取り上げる予定でいる。今回手に入れた『ギリシアへの旅』は、正月休みくらいにゆっくり読もうと思う(そのときまた、このブログサイトに感想を書くつもりだ)。
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