2019.04.30 13:07ソークラテースと復讐今日の「西洋哲学」の講義では、ソークラテースを取り上げた。教科書にしている、岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』の解説にしたがいながら、ソークラテースの生き様について話をしたのだが、学生たちは彼の信念の強さ―ピロソピアー(知を愛すること)の生涯にわたる実践―に感動を覚えたようだ。 学生のコメントのなかに、「ソークラテースが(友人たちの脱獄のすすめを退けて)死んでしまったことが、残念に思った」「ソークラテースがあのようなかたちで死ぬのは本当によいことだったのか」「ソークラテースに死なれた友人たちの気持ちはどうなるのか」といったような、ソークラテースの死について違和感を表明するようなものが複数あり、これは興味深く思った。ソークラテースが牢獄で毒を飲んで死んだのは...
2019.04.29 00:572019/5/6の「知るほどおもしろギリシア神話」NHK文化センター梅田教室にて、私が毎月第一月曜に担当している「知るほどおもしろギリシア神話」の次回の案内です。日時は、2019年5月6日(月・祝)10:30~12:00です。オウィディウス『変身物語』のなかの、世界の始まりと人間の誕生をめぐる物語をご紹介します。「宇宙および人類の起源」の物語は、世界各地の神話にみられるもので、今回は、それらとの比較をつうじて、オウィディウスの記述の面白さを味わっていただきたいと思います。また、「ギリシア神話作家」としてはオウィディウスの先輩にあたる、ヘーシオドスの著作(『神統記』)のなかでも、宇宙開闢のことが語られていますので、こちらも合わせてみていくつもりです。ご興味のある方は、ぜひお申し込みのうえ、ご参加ください...
2019.04.28 11:12鶴見祐輔による『対比列伝』の紹介ここのところ、大戦期における日本のプルータルコス『対比列伝』の受容について調査を進めているが、当時、主に外交の分野で活躍した政治家、鶴見祐輔(つるみ・ゆうすけ、1885(明治18)~1973(昭和48))の『プルターク英雄伝』はとりわけ重要な資料だ。これは、ジョン・ドライデンの英訳をもとにした、鶴見による『対比列伝』の日本語訳で、初版は1934年に出た。のちに複数の出版社から改版も出されていて、日本において『対比列伝』の認知度を上げるのに大きな役割を果たしたと考えられるものだ。今もっとも手に入れやすいのは、全8冊の潮文庫版(1971~1972年)からの抜粋でできた、「潮文学ライブラリー」版である(以下、頁数を記すときは、この版のそれにしたがう)。 僕が...
2019.04.27 12:33『対比列伝』を書き換えた澤田謙の「英雄」今日は、京都大学西洋古典研究会の例会で、日本におけるプルータルコス『対比列伝』の受容にかんする発表をさせてもらった。分析対象として取り上げたのは、主に昭和時代に活躍した文筆家である澤田謙(さわだ・けん、1894(明治27)~1969(昭和44))の『少年プリューターク英雄伝』(1930年=昭和5年)だ(数年前、講談社文芸文庫の復刻版が出たが、詳しくは下のリンクを参照されたい)。 澤田の著作は、一言でいえば、『対比列伝』のアダプテーションである。『対比列伝』については、明治から大正にかけて、さまざまな翻訳(すべて英語からの重訳)が現れたが、澤田書は、これらとはその性格を異にしている。要するに、澤田独自のさまざまな「編集」の形跡がみられるわけだが、そのなか...
2019.04.24 14:15言語思想史におけるマックス・ミュラー「現代神話学」の講義のために、ハンス・G・キッペンベルク『宗教史の発見―宗教学と近代』(詳細は下のリンクを参照されたい)の、マックス・ミュラー(Friedrich Max Müller、1823~1900)に焦点を当てた第三章(「諸言語が語るヨーロッパ初期宗教史」)を読んだ。 今回、ミュラーの神話理論―いわゆる「言語疾病説」―を取り上げた部分(63~66頁)もたいへん勉強になったのだが、僕がこれよりはるかに面白いと思ったのが、ミュラーの言語思想にかんするキッペンベルクの解説だ。ミュラーは、たとえば彼の神話研究のマニフェストともいえる論文「比較神話学」(1856年)のなかで、神話における言語の側面(具体的には、神話に登場する神や人間の名前)に異常といえる...
2019.04.23 14:55パルメニデースにたいする興味今日の「西洋哲学」の講義では、「ソークラテース以前の哲学」をテーマとして、クセノパネース、パルメニデース、デーモクリトス、プロータゴラースの4人の哲学者を取り上げた(人物の取捨選択については、教科書にしている岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』にしたがった)。 学生からはさまざまな反応があったが、「パルメニデースの議論が難しかった」というコメントがとくに目立った。岩田(『ヨーロッパ思想入門』47~50頁)の解説にもとづきながら、「ある」の不生不滅の話をしたわけだが、学生にとってはこれがあまりに抽象的で理解しづらかったようだ。 僕にとっても、パルメニデースは、「ソークラテース以前の哲学者」のなかでとりわけ興味深い存在であり続けている。というのも、以前、納富信留...
2019.04.22 12:15日本教育史におけるプルータルコス『英雄伝』鷲田小彌太『はじめての哲学史講義』(詳細については下のリンクを参照)を読んでいて、モンテーニュの解説の末尾に、「『プルターク英雄伝』」という題名のコラムが付されているのを偶然見つけた。見開き一ページのごく短いものだが、僕が現在進めている研究と深くかかわることが記されていたので、簡単にメモしておきたい。 文章の趣旨は、日本におけるプルータルコスの『英雄伝』の教育的役割―伝記のかたちをとって歴史上の範例を提供するという役割―に注目してみる、というものだ。出だしの部分から少し長めに引用したい。太平洋戦争敗戦後、日本の教育の題材から消えて久しいものの一つに、「英雄」物語があります。各時代、各分野の英雄を選りすぐり、その生き方、考え方から学ぶということを、偶像崇...
2019.04.20 14:40ロマンス語を一から学ぶための本今年2月に刊行された、小林標『ロマンスという言語―フランス語は、スペイン語は、イタリア語は、いかに生まれたか』をようやく入手した。著者は、大学書林の『楽しく学ぶラテン語』(1992年)と『ラテン語文選』(2001年)、あるいは中公新書の『ラテン語の世界』(2006年)と『ローマ喜劇』(2009年)などで知られる、ラテン語学・古代ローマ学の権威で、この本も、(タイトル中の「いかに生まれたか」の部分から推測できるように)ラテン語の重要性が全体にわたって強調されている。さっそく読み進めているが、これは、大学のラテン語の授業で、理解の補助のためにイタリア語やフランス語の話も頻繁にしている僕にとって、まさに「教科書」的に使えるものであることがわかった。 「大学用...
2019.04.19 12:02蜷川幸雄による鏡の演出今日の「西洋古典文化論」の講義では、ソポクレース『オイディプース王』の後半(イオカステーが神託・予言術にこだわるオイディプースをいさめる場面から、最後まで)の内容を紹介したうえで、蜷川幸雄の演出による《オイディプス王》のDVDを一部見てもらった(このDVDの詳細については、下のリンクを参照されたい)。収録されている公演(2002年、シアターコクーン)では、舞台の背後に巨大な鏡が設置されていて、基本的に演者たちは、この鏡を背にして話したり動いたりすることになっている。今回、この鏡の演出について、若干名の学生が(コメントペーパーのなかで)きわめて興味深い見解を示してくれたので、そのことについて簡単にメモしておきたい。 結論からいうと、その学生たちの見解とは...
2019.04.18 12:5821世紀の神話学?今日の「現代神話学」の講義では、19世紀後半から20世紀後半にいたる神話研究史の大まかな流れについて解説した。次回から、個別に学者(F・M・ミュラー、G・デュメジル、C・レヴィ=ストロースなど)の説をみていくので、その準備という恰好だ。 解説にあたっては、松村一男が『神話学入門』の第一章(「神話学説史の試み」)で提示する、「19世紀型パラダイム」と「20世紀型パラダイム」の概念を借用させてもらった。神話研究史を俯瞰すると、「進化論」と「歴史主義」を特徴とする「19世紀型」から、「構造主義」と「反歴史主義」を特徴とする「20世紀型」へと、パラダイムの転換が起こっている、という議論だ。 例のごとく学生にはコメントペーパーを書いてもらったのだが、そのなかに、...
2019.04.17 11:57『古代ギリシャ語語彙集』私も翻訳者の一人として作成に参加した、『古代ギリシャ語語彙集―基本語から歴史/哲学/文学/新約聖書まで』(詳細については、下の出版社の紹介ページをご覧ください)ですが、おかげさまで、2016年3月(改訂版は2016年4月)の刊行以来、じつに多くの方々に利用していただいております。現時点での最新版は、2017年7月付の「改訂版第3刷」ですが、出版社によれば、まもなくこれも完売となり、近く増刷が予定されている、とのことです。本書を購入してくださった皆さま、まずは本当にありがとうございます。 あらためて中身の説明をさせてもらいます。本書は、古代ギリシャ学の本場ドイツで、すでに定評があり、多くの古代ギリシャ語学習者に利用されている、Grund- und Auf...
2019.04.16 12:40「赦し」の宗教としてのキリスト教今日は、「西洋哲学」の講義の初回だった。岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書、2003年)を教科書として、「ソークラテース以前の哲学」からロールズの正義論にいたる、ヨーロッパ思想の大きな流れを紹介する、という趣旨の授業だ。 今回は、イントロダクションとして、岩田書の「はじめに」(iii~v頁)で解説がなされている、「ヨーロッパ思想の二つの礎石」にかんする話をした。岩田によれば、ヨーロッパ思想は、(A)「ギリシアの思想」と(B)「ヘブライの信仰(=ユダヤ教・キリスト教)」の「二つの礎石」のうえに成り立っており、それぞれを特徴づけるものとして、前者には、(A1)人間の自由と平等の自覚、(A2)理性主義、の二つがあり、後者には、(B1)天地万物の...