2019.02.28 12:45『アエネーイス』における女性と戦争ケンブリッジ大学出版局から出ているシリーズ'Roman Literature and Its Contexts'は、僕の大のお気に入りだが、今日はこのシリーズに入っている一冊、A. M. KeithによるEngendering Rome: Women in Latin Epic(詳細は下のリンクを参照)のひとつの章を読んだ。以下はその簡単な備忘録。 読んだのは第四章の「戦いの始まり―戦争をジェンダー化するExordia pugnae: Engendering War」(pp. 65-100)だが、ここでKeithは、ウェルギリウス『アエネーイス』における戦争関連の出来事がいかなる仕方でジェンダー化されているかを詳細に論じたうえで、その他のラテン叙事詩(...
2019.02.27 09:52『アエネーイス』におけるさまざまな女性表象ウェルギリウス『アエネーイス』の女性キャラクターにかんするリサーチを続けているが、今日は、Ellen Oliensisという研究者による'Sons and Lovers: Sexuality and Gender in Virgil’s Poetry'という論文(詳細は下の【参考文献】欄を参照)を読んだ。ウェルギリウスの3つの作品(『牧歌』『農耕詩』『アエネーイス』)において、セクシュアリティおよびジェンダーといったものがいかに複雑なかたちで表象されているかを論じたものだ。『アエネーイス』を取り上げる部分(pp. 303-310)をとくに熱心に読んだのだが、以下では、面白いと思ったことを3つほど(すべて女性キャラクターの分析にかかわるもの)メモしておき...
2019.02.26 09:182019/3/4の「知るほどおもしろギリシア神話」NHK文化センター梅田教室にて、私が毎月第一月曜に担当している「知るほどおもしろギリシア神話」の次回の案内です。日時は、2019年3月4日(月)10:30~12:00です。ホメーロス『オデュッセイア』で描かれる、オデュッセウスとペーネロペイアの夫婦関係にスポットライトを当てます。この二人については、しばしばその相思相愛が強調されますが、じつは話はそれほど簡単ではありません。両人は、最終的な和合にいたるまで、相手にたいしとても複雑な感情を抱きながら行動するのです。その具体的な中身が気になる方は、ぜひお申し込みのうえ、ご参加ください。
2019.02.25 12:35ベルリオーズのアスカニウス今日、カルチャーセンター(朝日カルチャーセンター中之島教室)の講座で、ベルリオーズ作曲の《トロイアーの人々》のDVD(2003年のシャトレ座における公演を収録したもの)を教材に使った。ウェルギリウス『アエネーイス』のディードーを取り上げた関係で、お見せしたのは、第2部(「カルターゴーのトロイアー人」)のなかの、アエネーアースとディードーが徐々に惹かれ合っていく箇所(第3幕と第4幕の一部)だ。鑑賞してみて、『アエネーイス』の記述とは異なる、ベルリオーズの興味深い改変点(《トロイアーの人々》は、曲だけでなく台本もベルリオーズによって作られた)を見つけたので、今回はそれについて簡単にメモしておきたい。 その改変点とは、「恋の仲介人」としてのアスカニウスにかん...
2019.02.24 09:02オペラ化されたギリシア神話にかんする本大学の授業やカルチャーセンターなどで、ギリシア神話を主題としたオペラのDVDをみせることがある。その際には、関連の文献をいくつか事前に読んでおくのだが、これまで、重要であることは明らかなのに読めていなかった一冊の本があった。それが、楠見千鶴子『オペラとギリシア神話』(詳細は下のリンクを参照)である。今回、ようやく入手したので、初読の感想を簡単に記しておきたい。 全体は5つの章に分かれている。第一章の「オペラとギリシア神話・四百年の相愛」は、イントロダクション的な性格をもつもので、ギリシア神話関連の作品に頻繁に言及がなされつつ、芸術ジャンルとしてのオペラの歴史が時代順に説明されていく。情報は豊富だが、それが単なる羅列に終わらず、きわめて頭に入りやすい仕方...
2019.02.23 13:24想像力の悪しき側面昨日(2019.2.22)の記事で、僕はアーシュラ・K・ル=グウィンの「アメリカ人はなぜ竜がこわいか」というエッセイを取り上げたが、これは、一言でいえば、文学擁護論としての想像力論であった。ル=グウィンは、文学(とりわけファンタジー)の源泉といえる想像力というものが、人間にとっていかに重要であるかを説いていたわけだ。 彼女の見解に僕は基本的には賛成だが、件のエッセイを読んだとき、これと内容的に関連する重要な議論があることを思い出した。それは、かのテリー・イーグルトンの「想像力批判」である。これは、彼の『詩をどう読むか』(日本語訳の情報は下のリンクを参照)のなかでごく簡単に展開されるのだが、なかなか考えさせられる話なので、以下、その要点をメモしておきたい...
2019.02.22 12:21ファンタジーをこわがる大人たちアーシュラ・K・ル=グウィンの『ラーウィーニア』にかんする論文を書き進めているが、その参考資料となりそうな、彼女の評論・エッセイの類も可能なかぎり多く読むよう努めている。今日面白く読んだのは、『夜の言葉』(日本語訳の情報は下のリンクを参照)に入っている、「アメリカ人はなぜ竜がこわいか」という文章だ。 これは、一言でいえば、ル=グウィンが想像力の重要性を説いた文章で、タイトルにある「竜」とは、想像力によって創り出される「ファンタジー」の代名詞(あるいは換喩)である。彼女によれば、「非常に多くのアメリカ人がファンタジーのみならずフィクション全般に対して否定的である」(84頁)らしく、アメリカ人には「国民的に、想像力の産物をうさんくさげな、もしくは軽蔑の目で...
2019.02.21 09:342019/2/25の「ギリシア神話入門」朝日カルチャーセンター中之島教室にて、私が毎月第四月曜に担当している「ギリシア神話入門」の次回の案内です。日時は、2019年2月25日(月)15:30~17:00です。ウェルギリウス『アエネーイス』に登場する、カルターゴーの女王ディードーについて解説します。彼女は、前半部の主役といっても過言ではないほどの存在感をもっており、本作の悲劇性をもっともよく体現している人物です。『アエネーイス』における関連の記述を読むとともに、これにもとづいて作られたベルリオーズ作曲のオペラ《トロイアーの人々》も鑑賞したいと思います。ご興味のある方は、ぜひお申し込みのうえ、ご参加ください。
2019.02.20 10:48『変身物語』にもとづいて作成された絵画にかんする本明日、神戸新聞文化センター三宮で行うコッレッジョにかんする講演のために、2ヶ月ほど前から少しずつ準備を進めてきたが、なかなか楽しい日々だった。僕は美術史の専門家ではなく、あくまで絵画の愛好家にすぎないので、「準備」というのは、美術史のプロが書いた「絵画の鑑賞法」にかんする本を読むことを意味する。そのような本のなかで、とくに得るところが多かったのが、Paul Barolsky, Ovid and the Metamorphoses of Modern Art from Botticelli to Picasso, Yale UP, 2014(詳細は下のリンク先を参照)だ。 この本では、オウィディウスの『変身物語』にもとづいて作成されたと考えられる絵画がお...
2019.02.19 09:29『変身物語』を「変身」させた絵画明後日、神戸新聞文化センター三宮にて、コッレッジョのギリシア神話画をテーマとした講演をさせてもらうのだが、準備の際にとても役に立ったのが、逸身喜一郎氏の『ギリシャ神話は名画でわかる―なぜ神々は好色になったのか』という本だ(詳細は下のリンクを参照)。備忘も兼ねて、読みどころを紹介しておきたい。 この本では、オウィディウス『変身物語』の記述がもとになって作成されたと考えられる、ルネサンス・バロック期のギリシア神話画が取り上げられるのだが、考察の過程で、しばしば逸身氏は、オウィディウスの描写と絵画作品の相違点にスポットライトを当てる。そこで発生するメカニズムについて、逸身氏は次のように述べている。画家は『変身物語』中のひとつの話を絵にする。絵にするということ...
2019.02.18 08:58三人の叙事詩人の作品を楽しむ今日は、この3月に京都大学を定年退職される、高谷修先生の最終講義に出席させてもらった。僕は先生の直接の弟子ではないが、たとえば先生の『ギリシア・ローマ文学と十八世紀英文学―ドライデンとポープによる翻訳詩の研究』(世界思想社、2014年)などをつうじて、多くのことを教えていただいたので、今回の講義もぜひ拝聴したいと思った次第だ。専門的な議論を展開するのではなく、「私はいかに楽しく過ごしてきたか」について語る、ということで、僕も終始リラックスした気持ちで先生のお話を伺っていた。 講義題目は、「ダンテ、ウェルギリウス、そしてアリオスト」。90分間の中身はとても濃いものだったが、それを(不遜ながら)要約すれば、この三人の叙事詩人のかかわりあいを、各人の作品(『...
2019.02.17 11:09『アエネーイス』の女性たちの「消える身体」と「残りつづける声」『アエネーイス』における女性の表象についてリサーチを続けているが、今日は、S. Georgia Nugentという研究者による、'The Women of the Aeneid: Vanishing Bodies, Lingering Voices'という論文(詳細は下の【参考文献】欄を参照)を読んだ。 サブタイトルに示されているように、この論文が注目するのは、女性の登場人物の「消える身体(Vanishing Bodies)」と「残りつづける声(Lingering Voices)」だ。Nugentによれば、『アエネーイス』における女性たちの死の場面に注目すると、彼女たちの(物質性をそなえた)身体は無の状態にされてしまっている(つまり描写がゼロに等しい)...